シアトルでも移民規制強化反対デモ

Union Station 前



いつものように夕食を食べようと International District に行ったら、何やらいつもよりも人がずっと多くいて、デモ行進が行われている。 これは、今日 (4月10日) シアトルのダウンタウンで実施された、"National Day of Action for Immigrant Justice" の Rally (行進) だった。


いま米議会では、全米に1100万人以上 (一説では 2000万人) いると言われる不法就労者にどう対応するか、という法案を審議していて、「彼ら・彼女らを犯罪者と見なす」という強硬論と、「彼ら・彼女らに法的猶予を与えて最終的に市民権への道も確保する」という温情論が議論されている。 強硬論が優勢な動きに対して、とくに全米のヒスパニック系の人たちが抗議行動を展開している。


シアトルのデモは、Central District の St. Mary's Church (611 20th Ave. S.) からスタートして International District を通過し、ダウンタウンの Federal building (Second Avenue and Marion Street) に至るという行進だった。 私が目で見た感じだと 少なくとも数千人は参加してそうだ、と思った。 地元の新聞によると参加者は (正確にはわからないけれど) 推定約 15000 人だそうです。 人数は多いけれど、行進そのものは ごくごく平和に実施されていた感じ。


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アメリカの現在の経済が不法就労者にすでに依存するしくみになっているので、彼ら・彼女らをアメリカから単純に排除することはもうできない。 そして、彼ら・彼女らの多くはすでにアメリカで家庭を築き、その子供たちがアメリカで学校生活を営んでいる。 彼らを今さら国外退去とするのは、人道的にも問題が多いとの指摘もある。


プラカードに、 "ILLEGAL IS NOT CRIMINAL" という言葉があって、これは考えさせられる言葉だと思った。 誰もが、現行のシステムが broken なことを感じているので、illegal かどうかはもはや問題の本質ではない。 不法就労者とその家族は、もはやアメリカの一部なのではないか、彼ら・彼女らを Criminal (犯罪者) と呼ぶのはアメリカの理想を自己否定することなのではないか、という問いかけ。


今回のデモはほとんど全員がヒスパニック系の人たちだったみたいだけど、これまでのアメリカの歴史において中国系移民、日系移民、ベトナム系移民の人たちもヒスパニック系の人たちと同じように搾取され、差別されてきた経緯がある。 初期の中国系移民や日系移民は、缶詰工場、鉄道建設などで重労働に従事した (それしか仕事がなかったから)。 度重なる排斥運動。 それでも、祖国の貧しい境遇を抜け出して、豊かな暮らしをしたい、家族や子供たちに豊かな暮らしをさせたい、との一心で、苦しい境遇に耐え続けた何万人もの人たち。


International District の歴史そのものが、差別との闘いながら自分たちの暮らしを築こうとした移民たちの歴史。 自分が日本への帰国をすすめているときに、5年間のアメリカ滞在中初めて 移民問題についてのデモ行進を目の前で、しかもこの International District という町で直接見ることができたことには、何か特別な意味があるようにも思う。 このデモ行進のルートの近くには、Wing Luke Asian Museum もあり、そこではいつも移民にまつわる問題についての教育的展示が行われており、最近であれば、女性と暴力の展示 (Mail Order Bride の話とか)、ベトナム戦争終結30周年記念としてサイゴン陥落の話が展示されていたことを思い出す。


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いまの日本でも、不法滞在者に対する人道的な対応が求められている。 たとえば、市役所の外国人生活相談窓口に相談に訪れた外国人がたまたま不法滞在者だった場合、市役所は 入国管理局に報告する義務を負うべきかどうか (たしか、現行法では「報告するのは義務」ということになっていたと思う)。 入国管理局の対応がいつも「即刻国外退去」であるならば、そもそも市役所の窓口が市民生活における外国人との円滑な共生という目的に対して有効に機能しなくなるのではないか。


いわゆる3Kといわれる肉体労働、レストランや工事現場での人目に触れない労働の多く、また町工場での作業の多くが、いまの日本でも外国人によって担われている。 アメリカほどの規模ではないにせよ、日本経済も外国人労働者に対する依存度を少しずつ高めており、「研修生制度」を利用した就労習慣 (法律的にグレーゾーンなので労働者の権利も守られているのかどうか怪しい) も もっと問題視したほうがいいように思う。


今日シアトルで目にしたようなデモ (これは正統な言論行為なので、その権利は守られるべきだと思うし、今日のデモを見た感じだと危険な感じはまったくしなかった) が、 日本で見られるようになる日も、そう遠くないのかもしれない。 その時に、冷静な政治的・経済的対話ができるような日本社会であってほしいと思う。 政治家がこの手の話をブログに書き、それに対して市井のブログが反応する、というコミュニケーションがもう少し普及してくれば、テレビやマスコミの役に立たないヒステリー報道空間を無視した上で 私たちは有意義な対話をすることができるようになるかもしれない、というのはちょっと楽観的すぎるかな。


[参照]
・地元紙 Seattle P-I の報道
  http://seattlepi.nwsource.com/local/266182_rally10ww.html
  http://seattlepi.nwsource.com/national/266136_immig10.html
  http://seattlepi.nwsource.com/photos/popup.asp?gtitle=Seattle%20immigration%20rally%2C%204-10-06&SubID=1450&page=0&css=/photos/gtitle.css&pubdate=4/10/2006
・読売新聞の報道
  http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060411i304.htm
JANJANによる報道
  http://www.janjan.jp/world/0604/0604051962/1.php