差別の強弱、不安の増幅、すべては連鎖。


3月27日のニュースによると、オウム真理教松本被告の死刑が ほぼ確定だそうです [1]。 彼を死刑にしたからといって社会が実際に良くなるわけではないかもしれないけど、被害者の人たちの感情を手当てするために、死刑という制度は必要なのだろうと思う。


松本被告本人のことには私は興味はないんだけど、少し気がかりなのが彼の子供たちの状況。
  ・2004年3月、和光大学文教大学松本被告の三女の入学を拒否 [2]。
  ・2006年3月、埼玉の私立中、松本被告の二男の入学を拒否 [3]。


三女はいま仮名で大学に通学しているとのこと。 公安は彼女の実名をリークしているという噂。 「私立学校はビジネスである、入学を認めることで他の学生から不満が出たり風評が悪くなったりする危険もあるのでは」という意見も見られる。


この子供たち、いまはきっととても大変な思いをしながら暮らしているのだろうと思う。 うまく社会とのつながりを作ることができれば こういう経験は精神的な大成長にもつながるとも思うので、将来 彼ら・彼女らが 30歳ぐらいになるころには、人格的にすぐれた立派な人物になっている可能性もある。 そのときに彼ら・彼女らが どのような言葉を話し、どんなことを私たちに教えてくれるのか、私は遠くから少し注目している。


この松本被告の子供たちのケースはかなり極端なので差別の構図が誰から見てもわかりやすく、ある意味では彼ら・彼女らは その極端さゆえに守られているという見方もできる。 こういう極端なケースについてだけ「差別はいけない」なんて言ってイイ気になっていると、もっと見えにくい差別、日常的に見られる陰湿なイジメ、あるいは今でも続く在日韓国人・在日中国人の人達へのビミョーな差別に日々イヤな思いをしながら過ごしている子供たちの中にさらに憎悪を蓄積してしまうことになりかねない。 差別問題への注目の度合いにすら、すでに逆差別の構図が。 うーん。


そういえば、社会起業家の駒崎さんという人が、江東区子育て支援課で経験した ひどい先入観によるラベリングについて、すべては連鎖しているので結局私たちが変わるしかない、ということを最近のブログで書いていて、そのとおりだと思った [4]。


  > 目の前の人が見せるどうしようも無い発言も、
  > その人がどうこうということも
  > あるが、しかし連鎖し、連環している。
  > 結局私達が変わらない限り、この連鎖は
  > 止められない。そう思ったからこそ、
  > 怒りではなく、その変化への長い取り組みの
  > 予感ゆえ、憂鬱になってしまったのだ。


そして 駒崎さんはこの連鎖を少しでもたちきるために、宗教組織からの取材依頼を受け入れる (くわしい経緯は彼のブログを読んでください)。 立派だと思う。


宗教や非営利団体に限らず、下流社会だの、勝ち組・負け組だの、マザコンだの、電車男だの、負け犬だの、オタクだのをめぐる議論の多くにも見られるけれども、安易なラベリングをしたい誘惑とヒステリアに身を任せて誰かを悪者・失格者・部外者・敗者と呼ばないことには安心できない人たちが今の日本には残念ながらまだ多いのか、この不安を故意に増幅して お金儲けをしようとするマスコミの勢力はとても強い。 なんでもいいからスケープゴートを名指しして、「自分は彼ら・彼女らとは違う、自分は『普通の人』、彼ら・彼女らよりも自分のほうが『マトモ』」・・ そう思い込むことで少し一時的にホッとできるのはわかるけど、冷静に見れば、それは同時に周囲の人たちとの関係を少し失うことでもあるし、そういう不安を利用しようとするマスコミを儲けさせることでもあるし、自分たちの社会を正気に戻していくための大局的なコミュニケーションを一層難しくすることでもある。 損得勘定すれば、これ、損のほうが多いよなあ、と思うのは私だけなのかな。




(蛇足 (悪魔の囁き): まてよ。 この安易なラベリングとヒステリアは、ある意味でマスコミが収益のために作り上げた幻想でもある。 ならばそれを逆手にとって、この幻想を中和していくようなビジネスはできないだろうか。 みんなが自分の欲望と価値観に従ってお金をつかっているうちに、いつのまにか差別・ラベリングについての問題が軽減されていくような仕組みを考えることができれば、わりと面白いかもしれない。 この場合、お金を使う理由は、物欲っていうよりは、もしかすると感情的なものになるかもしれないので、世の中の感情のバランスの網の目の中で地雷を踏まないように気をつける必要がありそうだけど・・・。)




参照:
[1] 2006.3.27 [ニュース] 松本被告の控訴棄却、死刑へ、弁護団は異議
http://www.asahi.com/national/update/0327/TKY200603270335.html
[2] 2004.4.30 [ジャーナリスト・江川 紹子さん] 扉を開けて〜松本智津夫三女の入学拒否問題を巡って。
http://www.egawashoko.com/c003/000004.html
[3] 2006.3.3 [弁護士 ・落合 洋司さん] オウム松本被告二男も入学拒否=合格後に連絡、埼玉の私立中。
  http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060303
[4] 2006.3.9 [フローレンス・駒崎さん] ラベリングからの脱出
  http://komazaki.seesaa.net/article/15097376.html