大前 研一「ロウアー・ミドルの衝撃」


大前 研一著 ロウアーミドルの衝撃 を読んだ。
ロウアーミドルの衝撃


■要約

  • 日本は、これまでの「提供者の論理」ではなく、生活者主権の国づくりに正面から取り組んでいかなければならない。
  • 「新・資本論」(2000年)でも言ったが、ボーダレス化、サイバー化、マルチプル化による経済が日本でも進行している。
  • 金利と不景気を関連付けるのは間違い。個人の購買を刺激するために、金利を上げたほうが、流通する貨幣の量は増大する。
  • 現在の状況は「デフレ」ではなく、正当な価格競争の結果 (いままでが無駄が多くて高すぎただけ)。 この状況にインフレを誘発しようとする政策は間違っている。
  • 今後日本ではロウアーミドルクラス (年収300-600万円)、ロウアークラス (年収300万円以下)が人口の80%を占める。 これらの人たちが豊かな暮らしを送れる社会・経済システムをつくらなければならない。
  • 2025年に、日本の中位数年例 (メディアン)が50歳を超える。 この前に改革の必要がある。
  • 「なんちゃって自由が丘」的企業、たとえばナチュラルキッチンZARAアイリスオーヤマ京王プレッソイン東銀座、東急イン東横イン、が成功している。
  • 成功しているニューラグジュアリー・製品・サービス、たとえばピエトロドレッシング、健康エコナ油、ハーゲンダッツカップ、なども「たまの贅沢」としてロウアーミドル層に売れる。
  • 購買者の層 = パラサイト、負け犬、DOM (Dirty Old Man)、 子育て・住宅ローン世帯を考慮すること。 選択的消費・支出が多い層が狙い目。
  • 価格は低いが、ハイタッチの製品・サービスを。 ステータス性よりも、実用性を。 ストックとされていた消費を、フロー化せよ (たとえば、ソファのカバーを7000-8000円で提供、など)。
  • 流通革命IT技術の活用により、ハイタッチな製品・サービスが低価格で提供可能。
  • ロウアー・ミドルだからといって生活が貧しい必要はまったくない。
  • 消費者は「偏見」をやめよ。 自分の判断を信じろ。 (例: 東京の東よりも西のほうが「高級」、国産を信仰、など)
  • 日本人は「プロンプター人種」。自ら考え行動することをしない。 が、階層化、M字型社会になることで、ロウアーミドルクラスの人たちが怒りを爆発させていけば、良い展開があるのではないかという期待もある。
  • 個人は、賃金上昇を前提とせず将来設計せよ。
  • 市場開放をすすめよ。 構造改革をすすめよ。 無駄をなくせ。 教育をよくしろ。
  • 国際舞台で仕事ができる日本人をふやせ。


■雑感

  • ロウアーミドル層、ロウアー層であっても豊かな暮らしができるはず、それができないとすれば社会の仕組みのほうを変える必要がある、という意見には賛成。 ビジネスの仕組みを変えていくことにより、品質を上げつつ価格を下げることができるであろう、という提言は刺激的で説得力がある。
  • 提供者の論理から生活者主権の社会への取り組みが必要だ、という意見もそのとおりだと思う。 ネットビジネスにおいても、この動きの一部はすでに始まっている。 会社の代理人である人材紹介業が淘汰され、就職する側の代理人である人材紹介業が伸びているであろう。 また、販売する側の代理人であるショッピングサイトが淘汰され、購買する側の代理人であるショッピングサイトが伸びている。 「売る」のでなく「買うのを手伝う」という発想。
  • ロングテールWeb 2.0などの潮流は、ロウアーミドルクラス、ロウアークラスの サイレント・マジョリティーに力を与え、「ノイジー・マジョリティー」としての社会参加へ導いていくために使えるのではないか。
  • LOHASスローライフなどの潮流と、世界で活躍できる人材の輩出 (ストリート・スマート型リーダーの育成) の必要性は、一見矛盾するようだが、これは必ずしも矛盾するものではない、という予感がする。 北欧の教育について、あとでもう少し学んでみようと思う。
  • 所得課税ではなく資産課税、という提言を見て、ミヒャエル・エンデのお金についての話を思い出した。 お金とは、得るのではなく使うことで価値を生み出すので、お金を「滞らせている」人 (お金を使わないお金持ちとか) にはペナルティがあるべき。


(以上)